2006年2月4日土曜日

その瞬間をつかまえる


今日は数日前に撮った写真を取りに行った。

写真館というのはあまり行く機会がない場所だけど、
いいところだと思う。
好きな場所リストに加えることにした。

写真を撮った日には
スーツを着込んで顔をつくって(さすがに化粧もして)
びしっとして行った。
(肩から上しか写らないけど、
一部だけびしっとしていくのもなんか変なので
足下までちゃんとして出かけた。)

写真家はおじいさんだった。
お店の一階はカウンター、二階が撮影所になっている。
ほそい急な階段が二階へと続いている。
おじいさんが階段をとんとんとのぼって行くのを
下からぽかんと見上げていた。つっ立ったままで。
半分までのぼったあたりでおじいさんは私を振り返って
「こちらへどうぞ」と言った。
ああ。先にのぼって行ったのは
ついてこい、ということだったのか。
どうも私はこういう声以外のことばを受けとるのが苦手だ。

階段があんまり急なのでからだがななめになる。
二階に着いて平らな地面に立つと、
ちょっとバランスがとれなくて変な感じがした。
カメラと椅子が向かいあう小部屋。
私は椅子に座る。
おじいさんはファインダーを覗く。
私は顔にかかった前髪を手で払う。
おじいさんは「じゃあいきますよ」と言う。
私は目を見開く。
おじいさんはシャッターを切る。

その一瞬、空気がかたまったような気がした。
おじいさんが時間を止めたのだ。
フラッシュ、そしてゆるゆると再びながれはじめる時間。

写真はすぐ必要だったのと、
これからも何枚かほしかったので
スピード写真(すぐできるもの)用と
ネガをつくってもらう用と
二回撮ってもらった。

撮れた写真(スピード写真のほう)ができるまで
ストーブの前で足をぶらぶらさせながら待っていた。
壁にはあちこち写真が貼ってあった。
七五三、おりこうそうな男の子。
成人式、すまし顔でななめ立ちの女の子。
かしこまって口元で笑う家族写真。
くちを大きくあけてわらったようにみえる猫。
タイツを履いた脚。脚だけ。おどろくほどの曲線美。
(このモデルは撮影のときどんな顔をしていたんだろう)

それぞれの写真にストーリーを感じながら、
視線を壁から壁へ泳がせていると
ひときわ目をひく写真があった。がつんときた。
目だった。
なまなましくひかる目だ。
魚が網の上にのっている。
その魚の目がこちらを見ている。
目が合ってドキリとした。
そのうるんだ瞳は
私が気づくずいぶん前からこちらを見ていたような気がした。
そういう写真だ。

おじいさんは被写体と自分とのあいだにある時間を
何度も止めてきたのだ。


私の写真ができた。
怒ったような顔をしている(気がする)。
自分はもっとへらへらした顔だと思っていたので、ちょっと意外だった。
でもおじいさんがあのとき時間を止めて
四角い中におさめた、私そのもの。
これが外から見える私なのだと思う。

私はあんな風にシャッターを押すことはできないけど
なにかこの瞬間をつかまえるすべがほしい。
(それが文章であると願っています。信じています。)

写真はできた。
あとは自分を紙の上にうつしださなければ!
履歴書、エントリーシート、がんばります。






2 件のコメント:


  1. 以前から言ってることがかぶるかもしれないけど
    春ちゃんの言葉には
    私たちが思いついても書けない
    独特のリズムがあります

    そう、こんなことおもった
    そう、こういうふうに感じたんだ
    とおもうこと
    自分で実際に言葉に表すのは難しいこと

    だけど春ちゃんの文章には
    そういう身近さと
    かといって
    誰しもがかけるわけではない
    リズムを持っているのだ
    と思います

    私は。

    人が書く文章にはそれぞれに特徴があったり
    よさがあったりするので
    自分の書くものに自信を持つのは難しいことかもしれないですよね
    でも
    今活躍している誰もが
    自分の書く文章に対して
    自信とはちがう感情を抱きながら執筆しているのではないでしょうかね

    自信ではなく信じること
    そうしようとしている春ちゃんは
    文章に対してすごく真摯に向き合っているにだから
    もっと強く信じることは
    素晴らしいことだと思いますYO

    就職活動で
    へこむことも
    ガッデム!!
    って思うこともあるかもしれないけど
    そういうときこそ
    自分の書いた文章が自分の励みになるといいね

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  2. >よぴこサン
    ありがとうございます。
    うれしすぎます。
    ミクシィのほうにメールを送りました。
    時間のあるときにでも読んでください。

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